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東芝が4-6月期決算で最終利益4兆4000億円──前年同期の約30倍です。このニュース、一見すると「東芝すごい!大復活だ」と思いますよね。でも、ちょっと待ってください。この莫大な利益、東芝の銀行口座を潤したわけではないんです。実は、保有するキオクシア株の時価評価による「含み益」。今日は、この「幻の利益」の正体と、見かけの数字に振り回されないための視点を、順番にひもといていきます。
4兆4000億円の利益、でも現金は増えてない?
まずは衝撃の数字から。東芝の発表では、2026年4-6月期の最終利益が4兆4000億円あまり。前年同期と比べると約30倍です。普通に考えれば「あの東芝がここまで稼いだのか」と驚くところ。ですが、この利益のほとんどは、保有するキオクシアホールディングス(旧・東芝メモリ)の株式評価益によるものなのです。つまり、キオクシアの株価が上がったおかげで、帳簿上は大きな利益が出たように見える。しかし、東芝はキオクシア株を売却したわけではなく、実際に現金が入ってきたわけではありません。
たとえ話をしましょう。あなたが10年前に買ったビンテージギターが、いま市場で100万円の値段がついたとします。でも、まだ売っていなければ、その評価額は「含み益」です。実際の財布の中身は変わらない。それと同じで、企業が保有する株式の価格が上がると、会計上は利益として計上されることがあります。これを「評価益」と呼びます。東芝の4兆4000億円の大半は、まさにこの類いの利益。だから、ニュースだけ見て「すごい利益だ」と飛びつくのは危ういのです。
さらに言えば、この評価益というのは、翌期以降に株価が下がれば「評価損」に一変します。まるで蜃気楼のように、現れては消える利益。だからこそ、投資家は決算書のどこを見るべきかが問われる。目を向けるべきは、実際に企業が事業で稼いだお金の流れ、つまりキャッシュフロー計算書です。ここに、本当の「稼ぐ力」が隠れています。
とはいえ、評価益がまったく無意味というわけではありません。キオクシアのような成長企業の株を持っていることは、将来の売却益や配当という「本物のキャッシュ」に変わる可能性を示します。ただし、それがいつ実現するかは誰にもわかりません。逆に、株価の下落リスクも抱えた「まだ手に入れていない利益」であることを忘れてはいけません。
キオクシア株の評価益ってどういう仕組みなの?
東芝は、キオクシアホールディングスの株式を約40%保有しています(再上場前の数字)。キオクシアは世界的なフラッシュメモリメーカーで、需要増と価格上昇を背景に業績が好調。その結果、株式市場での評価額がぐんと上がりました。ここで会計ルールが顔を出します。東芝はキオクシアを持ち分法適用会社としているため、キオクシアの純利益の持分相当額を、自身の損益計算書(PL)に「持分法による投資利益」として計上します。
でも今回の利益は、キオクシアの純利益だけでは説明がつかないほどの巨額でした。実は、キオクシアの再上場に伴う株式価値の急上昇が、会計上の評価益をさらに膨らませた可能性があります。非上場株が上場することで、時価評価が可能になり、それまでの簿価との差額が一気に利益として浮上するのです。東芝にとっては、まさに「棚ぼた益」の側面が強いといえるでしょう。
ここで一つのたとえを。あなたが友人と共同で小さなカフェを経営しているとします。事業が順調で、カフェの価値が上がった。でも、あなたは自分の持ち分をまだ誰にも売っていない。帳簿の上では「儲かった」ことになるかもしれませんが、日々の生活費は別の収入から捻出している。東芝の決算もそんなイメージです。持っている資産の値上がりはうれしいけれど、すぐに使えるお金ではないのです。
さらに注意したいのは、この評価益が東芝の本業の儲けを覆い隠してしまうことです。実際の事業が生み出す営業利益やキャッシュフローが、巨大な評価益の陰に隠れて見えにくくなる。投資初心者ほど「純利益が大きい=良い会社」と思いがちですが、むしろこのケースでは、それに惑わされず、本業の数字を掘り起こす目が必要になります。
「売ってないのに儲け」はいつまでもつ? 評価損の恐怖
評価益は、明日にも評価損に変わります。株価は常に変動するからです。特に半導体市況はジェットコースターのような浮き沈みがあります。キオクシアの業績が悪化したり、市況が冷え込めば、その瞬間に株式価値はしぼむ。すると東芝のPLには巨大な評価損がのしかかり、一転して巨額の最終赤字に沈む。実際、過去にそれで痛い目を見た企業は少なくありません。
ここで思い出してほしいのが、ソフトバンクグループの事例です。ソフトバンクGはビジョン・ファンドなどを通じて多くのテクノロジー企業に投資しています。2019年度には、WeWork(当時)の評価損などで約1.4兆円の最終赤字を計上しました。一方、2020年度には投資先の株価回復で約4.9兆円の純利益を叩き出しています。利益も損失も、投資先の株価次第でジェットコースターのように上下する。まさに評価損益の魔術です。
東芝の4兆4000億円も、このソフトバンクGと同じ構図です。今日は巨額の利益を誇っていても、来期には同じだけの損失が出るかもしれない。投資家にとっては「宝くじに当たった」くらいの感覚で眺めておくのが無難です。大事なのは、企業が日々の事業でどれだけ安定してお金を稼げているか。評価益はその上に乗った「オプション」に過ぎません。
純利益だけ見て騙されるな──キャッシュフロー計算書の読み方
では、どうすれば評価益に踊らされず、企業の本当の力を見抜けるのか。答えはキャッシュフロー計算書(C/F)にあります。損益計算書(P/L)は「いくら儲けたか」を示しますが、C/Fは「実際にいくらお金が動いたか」を表します。売掛金や減価償却、そして今回のような評価益の影響を取り除いた、いわば「現金ベースの家計簿」です。
C/Fは大きく3つに分かれます。① 営業キャッシュフロー:本業で稼いだお金。これがプラスで大きいほど健全。② 投資キャッシュフロー:設備投資やM&Aなどの支出。成長のための投資。③ 財務キャッシュフロー:借入や返済、配当の支払いなど。東芝の決算で見るべきは、何より営業キャッシュフローです。本業でしっかり現金を生み出していれば、一時的な評価損で赤字になっても経営は揺るぎません。
評価益は営業キャッシュフローには一切影響しません。なぜなら、実際に現金が動いていないからです。ところが、P/Lの純利益は大きく押し上げられる。ここにこそ、決算書を読むときの落とし穴があります。ニュースで「最終利益〇兆円!」と報じられても、必ずC/Fをチェックする習慣をつけましょう。本業の現金創出力こそが、その会社の持久力です。
上の図を頭に入れておくと、決算ニュースを見る目が変わります。「この利益はキャッシュを伴っているのか?」と疑うこと。それだけで、表面的な数字に振り回されることは格段に減るはずです。
ソフトバンクGだけじゃない。歴史に学ぶ「幻の利益」
評価益にまつわる物語は、ソフトバンクGだけの専売特許ではありません。少し前を振り返ると、リーマンショック前の金融機関がいい例です。当時、多くの銀行は保有する株式や不動産の含み益を自己資本の一部とみなし、それを元手にさらなるリスクをとりました。しかし、金融危機で資産価値が暴落すると、含み益は一瞬で吹き飛び、むしろ含み損が経営を圧迫。資本不足に陥り、公的資金注入を仰ぐ事態になりました。
これは個人の投資にも通じる話です。たとえば、あなたが保有する投資信託が値上がりして含み益が出ていても、売却しない限りそれは「評価額」にすぎません。暴落時に「あのとき売っておけば…」と後悔するのは、評価益を実現益と混同してしまうからです。同じ心理の落とし穴が、企業の決算を読む際にも存在しています。
歴史が教える教訓はシンプルです。「含み益は、実現するまで利益ではない」。企業も投資家も、未実現の利益を当てにして次の一手を打つと、環境が変わったときにもろくも崩れ去ります。だからこそ、東芝の4兆円決算を前にしても、私たちは「本当に手にしたお金はいくら?」と冷静に問い続ける必要があるのです。
次に似たニュースを見たときのチェックポイント
最後に、今日の話を実践に活かすための3つのポイントをまとめます。
第一に、「最終利益」に飛びつくな。まずは営業利益を確認し、その次に営業キャッシュフローを見る。これが本業の実力です。第二に、「評価益」という文字があれば、それは現金を伴わないことに注意する。P/Lを大きく飾る一方、C/Fには登場しない魔法の数字です。第三に、翌四半期以降のリスクを想像する。好調な時にこそ、その逆を考えましょう。
東芝が発表した4兆4000億円。確かにインパクトのある数字ですが、その正体を知れば、決して手放しで喜べるものではないとわかります。企業の真の価値は、日々の事業が生み出すキャッシュに宿る。ニュースの見出しに心を動かされそうになったら、どうか今日の話を思い出してください。



