本文へスキップ
超!企業DB
日経平均64,325.64-1,890NYダウ52,980.73+214ドル円158.84-1NASDAQ26,208.82+109S&P 5007,666.58+35SOX 指数11,332.81+449/2終値

原油93ドル、円安164円。なのに日銀が「利上げできない」と言われる本当の理由

原油高と円安が同時に進むと、普通はインフレが加速して利上げ要因になる。なのに今回は「逆だ」という声が多い。そこにはコストプッシュ型インフレという家族の家計を直撃する罠が隠れている。日銀が動けない構造を、家計の悲鳴とともに読み解く。

超!企業DB 編集部·2026-07-25·11
アメリカのガソリンスタンドの価格表示板に4.44ドルと表示されたガソリン価格。円安と原油高による燃料費上昇を連想させるイメージ。
Photo · GG / Unsplash
目次6
  1. 01そもそも、なぜ原油高と円安が同時に進むとマズいのか?
  2. 02「コストプッシュ型」と「ディマンドプル型」、何が違うの?
  3. 03過去の原油高、日銀はどう動いた? 2008年と2014年の教訓
  4. 04消費者の「悲鳴」はもう数字に出ている
  5. 05市場はどう読む? 金利先物が示す「次の一手」
  6. 06この騒動、私たちの投資にどう関係するの?

7月24日、NY原油が93ドル台に急伸し、円相場は163円台後半まで下落しました。市場は来週の日銀会合に注目していますが、普通なら利上げを催促しそうなこのニュース、今回はなぜか「日銀は動けない」という見方が広がっています。その理由は、インフレの“質”にあります。

NHKwww3.nhk.or.jp· 2026-07-24
NY原油 一時1バレル93ドル台に 約1か月半ぶりの高値水準
NHKwww3.nhk.or.jp· 2026-07-24
円安加速 1ドル164円に迫る 39年8か月ぶりの水準に

そもそも、なぜ原油高と円安が同時に進むとマズいのか?

日本はエネルギーや食料の多くを海外からの輸入に頼っています。原油の代金は基本的にドル建てなので、原油価格が上がるだけでも支払いが増えるのに、さらに円安が進むと、円に換算した輸入価格は“二重に”跳ね上がります。たとえるなら、もともと値段が上がっている輸入品に、さらに「円安税」が上乗せされるイメージです。

この「円安税」は、想像以上に家計にしみ込んできます。為替が1ドル=100円から164円になれば、同じモノを買うのに必要な円貨は1.64倍です。原油価格が仮に1年前の2倍になっていれば、合計で3倍以上のコスト増になる計算。つまり、国際商品相場と為替は掛け算で効いてくるのです。そして日本は、この掛け算の結果をダイレクトに受ける構造になっています。

この結果、ガソリン代や電気代、食品など、生活に直結するモノの価格が上がります。企業も原材料費の高騰に苦しみます。つまり、原油高と円安の同時進行は、国民全体が“貧乏になる”圧力を強めるのです。企業がコストを価格転嫁できなければ利益を削られ、できれば消費者の財布が痛む。どちらに転んでも、誰かが損をする構図です。

で、ここからが今回のポイント。普通、モノの値段が上がる(インフレになる)と、中央銀行は「景気が過熱している」とみなして利上げをします。お金を借りにくくして消費や投資を抑え、物価を落ち着かせるわけです。でも、今回の値上げは景気が良いから起きているのではありません。むしろ、海外からのコスト増が原因で、家計を圧迫している。利上げをしてしまうと、追い打ちをかけて消費を冷やしかねない——これが日銀のジレンマです。

「コストプッシュ型」と「ディマンドプル型」、何が違うの?

インフレには大まかに二つのタイプがあります。ひとつは「ディマンドプル型」。景気が良くて、みんなの給料が上がり、モノが飛ぶように売れ、その結果として価格が上がる。これは経済が元気な証拠なので、過熱を防ぐ利上げは合理的です。需要が強いから価格が上がる、つまり「良いインフレ」と言っていい。

もうひとつが「コストプッシュ型」。原材料費や物流費など“作るのにかかる費用”が先に上がり、企業がやむなく販売価格に転嫁するパターンです。家計の収入は増えないまま、生活必需品だけが値上がりする。いわば「家計を削るインフレ」です。今回の原油高と円安は、まさにこのコストプッシュ型の代表選手。

この違いを家計のたとえで整理してみます。夫婦ふたり、子どもひとりの家族を想像してください。ディマンドプル型は「夫が昇給して収入が増えたから、外食の回数が増え、近所のレストランが値上げした」状態。一方、コストプッシュ型は「夫の給料は据え置きなのに、光熱費とガソリン代だけが急に上がり、外食どころかスーパーの買い物も切り詰めている」状態です。今の日本は、残念ながら後者に近い。

このたとえをさらに進めてみましょう。もしこの家で、追い討ちをかけるように「借金の金利が上がったら」どうなるか。ローンを組んでいれば返済額が増え、自由になるお金はさらに減る。これが、コストプッシュ型インフレ時に利上げをする恐怖です。つまり「物価が高いから消費を抑えよう」という政策が、ただでさえ苦しい家計から最後の余力を奪い去る——日銀が「利上げしたくてもできない」と言われるゆえんです。

過去の原油高、日銀はどう動いた? 2008年と2014年の教訓

歴史を振り返ると、今回と似た構図は過去にもありました。2008年春、原油価格は1バレル120ドルを突破し、ガソリン店頭価格はリッター160円を超えました。当時は世界的な好景気で資源需要が強く、日本は新興国向け輸出も好調だったため、日銀は迷いつつも結局は利上げに動けませんでした。そして夏以降、リーマン・ショックで世界経済が急転直下。結果的には利上げしなかったことで、その後の大不況への備えができたとも言えます。

ここには重要な教訓があります。資源高の背景が「世界経済の活況」だった点は、今と大きく違います。それでも日銀は動けなかった。なぜか。輸出企業は潤っていましたが、国内の中小企業や家計は既に高コストに苦しんでいたからです。つまり、輸出企業の好業績という“部分最適”が、日本全体の景況感を代表していなかった。これは、まさに現在も通じる構図で、輸出株が上がっても町の景気が良くならない、という現象を理解する助けになります。

次に2014年。こちらは少し毛色が違います。アベノミクスによる円安が輸入物価を押し上げ、消費税増税も重なって、家計の実質購買力が急低下しました。日銀は追加緩和に動きましたが、当時を覚えている方も多いでしょう。「賃金が上がらないのに物価ばかり上がる」と街の空気は冷え込み、消費は低迷しました。この時も、利上げどころか緩和の出口を探るのが精一杯だったのです。

つまり、原油高と円安のダブルパンチに直面したとき、日銀が利上げに踏み切れたケースは過去ほとんどありません。例外は、国内の賃金と消費がしっかり伸びていて「多少のコスト高を吸収できる体力がある」と判断できる時ですが、その体力が今あるかと言うと…。このパターン認識は、投資家が単に「今回の原油高は一時的だから大丈夫」と楽観しないための大事な視点です。

流れはこう
1
中東情勢悪化で原油先物が93ドル台に急伸
エネルギー輸入コストが世界的に上昇
2
同時にドル買い・円売りが進み1ドル164円台
円建ての輸入価格に“円安税”が上乗せ
3
ガソリン・電気・食品が値上がり(コストプッシュ型インフレ)
家計の購買力が削られ、消費が冷え込む
4
日銀が利上げすれば、借入コスト上昇で消費をさらに冷やす恐れ
景気と物価の両面から利上げ判断が困難に
5
市場は「日銀は動けない」と先読み、円安がさらに加速する悪循環
実際に利上げが遅れれば、投機的な円売りが強まる

消費者の「悲鳴」はもう数字に出ている

ここで、物価より先に動く“こころの指標”をひとつ見てみましょう。内閣府が毎月出している消費者態度指数。これは「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」などをアンケートしたもので、景気の先行きを読むのに使われます。過去、この指数が急降下した時は、その後の個人消費がはっきり落ち込む傾向があります。

そして、足元の実質賃金はまだ前年比マイナスが続いています。名目の給料は多少増えても、物価上昇率に負けている状態。消費者は「なんとなく懐事情が苦しい」と感じ始めており、それが節約志向や買い控えにつながります。日銀は別のところで「賃金と物価の好循環」を口にしていますが、原油高・円安がこの流れをぶち壊すリスクを、誰よりも恐れているはずです。

つまり、日銀が利上げをためらうのは「物価上昇率がまだ目標に達していないから」ではなく、「物価は上がっているが、中身が悪く、この先に消費の急ブレーキが待っているかもしれないから」なのです。この点は、2008年や2014年の時とも共通しています。家計の実感悪化が、数字に表れた時にはもう手遅れ、という局面を、中央銀行は何より警戒します。

NHKwww3.nhk.or.jp· 2026-07-24
株価 一時2200円超値下がり 原油価格上昇やAIへの過剰投資懸念

市場はどう読む? 金利先物が示す「次の一手」

それでは、実際に市場は日銀の次の動きをどう織り込んでいるのでしょう。金融市場には「金利先物」という、将来の金利を予想する商品があります。価格の動きから、市場参加者たちが何パーセントの確率で利上げを予想しているかを計算できるのですが、現時点では「来週の会合で利上げする確率は極めて低い」という結果が出ています。

この確率の低さは、過去の局面と比べても異例です。通常、これだけの資源高・円安が進行すれば、政策修正への思惑が先物に織り込まれます。しかし、今回は先物が「動かず」を示している。これは、市場参加者たちが「インフレは一時的であり、日銀は景気配慮を優先する」と読んでいる証拠です。その背景には、上で述べた「コストプッシュ型だから利上げはありえない」という理解が浸透していることがあります。

では、逆に「追加緩和」はあるのか。それも微妙です。なぜなら、日銀は大規模緩和の副作用(市場のゆがみや銀行収益の圧迫)をかなり意識していて、もうこれ以上は緩和を拡大したくない。かといって、利上げすれば消費を直撃する。まさに“身動きが取れない”状態で、市場は会合よりもその後の植田総裁の記者会見で「何か次の方針が出ないか」に注目しています。

ここで投資家として考えるべきは、「どちらかに張る」ことのリスクです。もし利上げが先送りされて円安がさらに進むなら、輸出企業の業績には追い風でも、国内需要株や電力・ガスなどのコスト増銘柄には逆風です。逆に、何らかのサプライズで引き締めスタンスが示されれば、円高に振れて状況が反転します。どちらに転んでも、振れ幅が大きくなる可能性を頭に入れておく必要があります。

この騒動、私たちの投資にどう関係するの?

まとめに入る前に、今日のテーマを生活と投資に引き寄せておきましょう。原油高と円安が同時に進むと、身の回りでは「ガソリン代」「電気代」「食品」がじわじわ上がります。この“じわじわ”が曲者で、一時の値上げと違い、家計のゆとりを構造的に奪います。すると企業業績で見た場合、同じ消費でも「安い店への切り替え」や「買う回数を減らす」行動が増え、小売りや外食には厳しい環境になります。

一方で、原油価格の上昇は石油元売り企業や商社には在庫評価益をもたらします。安く仕入れた原油が高く売れるため利益が膨らむのです。実際、ENEOSのような石油元売り会社の株価は、原油高局面でしばしば買われます。円安は輸出製造業の決算を押し上げます。だから「日経平均が大きく下げたから全部ダメ」という単純な話ではなく、業種や銘柄による明暗がはっきり分かれる相場になりやすい。

ENEOSホールディングス
5020
企業ページへ
売上
11.8兆円
営業利益
4,666億円
時価総額
3.64兆円
東京電力ホールディングス
9501
企業ページへ
売上
6.33兆円
営業利益
3,377億円
時価総額
9,065億円

ここまでを踏まえて、次に似たようなニュースが出たときのチェックポイントです。 ① 原油高や円安の原因は「世界景気の強さ」からか、それとも「地政学リスクや投機」からか。 ② 同時に発表される消費者態度指数や実質賃金は改善しているか。 ③ 日銀会合の結果だけでなく、声明文や記者会見で「インフレの質」にどう言及しているか。 この三点を押さえれば、「あの時と同じだ」と自分で判断できるようになります。

この記事のあとに読む日銀と原油高 / テーマ深掘り