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「投資有価証券売却益」が急に増えたけど、これって本当の“ボロ儲け”?

7月28日、ICやアバールなど、複数企業が一斉に「投資有価証券売却益」を発表。なぜ同じ日に集中? この利益、見かけの増益に惑わされず、本質を見抜くための思考法を解説します。

超!企業DB 編集部·2026-07-29·12
株価チャートが下落傾向を示す画面のイメージ
Photo · Arturo Añez / Unsplash
目次6
  1. 01「投資有価証券売却益」って、そもそも何?
  2. 02なぜ今、売却が相次いでいるのか? 裏にある2つの事情
  3. 03純利益が急に増えるとPERはどう変わる?
  4. 04「特別利益は評価しない」というプロの思考回路
  5. 05本物の成長と偽物の増益を見分けるたった一つのチェックポイント
  6. 06将来の配当には影響しない? 株主還元のリアル

7月28日、IC(4769)が特別利益の計上見込みを発表しました。それも「投資有価証券売却益」というやつです。実はこの日、アバール(6918)やインターライフ(1418)もそろって同じ開示をしています。「なんで今日だけこんなに?」——SNSでそんな声を見かけました。このモヤモヤ、正体があります。今日はこの「偶然の同時多発」の裏側と、増益に見えるときほど注意したい数字のカラクリを、ICのケースをもとにひもといていきます。

「投資有価証券売却益」って、そもそも何?

企業が持っている株や債券などを「投資有価証券」と呼びます。これを売って得た利益が「投資有価証券売却益」です。たとえるなら、あなたが趣味で集めた切手が値上がりして、それを売ったら思わぬ臨時収入になった、そんなイメージです。会社の本業とは関係ありません。ICでいえば、ITソリューションを提供して得る売上ではなく、保有していた株の値上がり分を現金化したわけです。

ここが最初の落とし穴です。決算書では「特別利益」に計上されるため、純利益がポンと押し上げられます。すると「お、増益だ」と勘違いしそうになりますが、本業が好調になった証拠ではありません。むしろ将来の売上や営業利益にはつながらない、一過性の数字です。翌期以降はなかったことになるので、ここで飛びつくと痛い目を見るかもしれません。

つまり、投資有価証券売却益とは「家計でいえばボーナス」です。ボーナスが入った月は家計が潤って見えますが、給料が上がったわけではありません。同じように、企業が保有資産を売って得たお金は、今期の利益を一時的にふくらませるだけ。だからこそ、本業の利益と区別して見る習慣が大切です。

もう一歩踏み込むと、この「ボーナス」は、会社が本来持っていた「資産という卵」を割って現金化したに過ぎません。家計で言えば、タンス預金を取り崩して「今月は収入が多かった」と言っているのと同じ。資産が減ったことに目をつぶれば、確かに手元のお金は増えますが、将来の安心を犠牲にしている。だからこそ、この利益を「稼ぐ力の向上」と見誤ってはいけないのです。

TDnet 適時開示release.tdnet.info· 2026-07-28
特別利益(投資有価証券売却益)の計上見込みに関するお知らせ

なぜ今、売却が相次いでいるのか? 裏にある2つの事情

28日に集中したのには理由があります。一つは企業の決算期末が近いこと。3月期決算企業の第1四半期(4〜6月)が終わり、決算発表のピークを迎えるこの時期、少しでも数字を良く見せたい企業が動きます。業績が思わしくないときほど、この特別利益で「着地を上振れさせる」誘惑にかられるわけです。しかも、この日は日経平均が3.9%の大幅下落。焦りがなかったとは言い切れません。

ここで因果を深掘りしましょう。なぜ企業は「数字を良く見せたい」のでしょうか。市場では、四半期決算の発表時に、アナリスト予想を下回ると株価が売られる傾向があります。特に第1四半期は、通期の業績を占う試金石。ここでつまずくと「今年はダメかも」というレッテルを貼られやすい。だからこそ、本業の利益が予想に届かないと見るや、「特別利益」という名の緊急ブースターを使いたくなる。つまり、この日の集中は、単なる「決算期末」という暦の問題ではなく、「市場の期待値」と「実力」のギャップに起因する、企業心理の表れなのです。

もう一つの事情は、株価そのものにあります。過去1年でアバールの株価は37%、インターライフは54%も上昇しています。市場全体が上昇基調だったため、保有株の含み益が積み上がっていた。ここで売れば、利益を確定できる——そんなタイミングだったともいえます。たとえば、あなたが一年前に買った株が50%上がっていて、しかも「そろそろ下がるかも」という雰囲気を感じたら、売りたくなりませんか。企業も同じで、含み益を「絵に描いた餅」から「実際の現金」に変える絶好のタイミングだったのです。

この二つの波が重なったことが、同日開示の真因です。過去を振り返ると、2021年にも似たパターンがありました。あの時はコロナ禍からの急回復局面で、多くの企業が政策保有株を売却して利益を計上。今回も、相場上昇で含み益が膨らみ、決算期を迎えるという「条件のそろい方」が同じ。歴史は繰り返すのです。

つまり、「決算をよく見せたい」というタイミングと、「含み益がたまっていた」という前提が重なった。同日に発表が相次いだのは「偶然の一致」ではなく、むしろ必然だった可能性が高いのです。

流れはこう
1
株高で保有株の含み益が積み上がる
過去1年の相場上昇が背景
2
決算期末が近づき、業績の下振れに焦る
第1四半期の数字が固まる時期
3
保有株を売却し、利益を確定
特別利益として純利益を押し上げ
4
見かけの増益で、市場の評価が一時的に改善
PER低下など表面的な好転
5
しかし本業の稼ぐ力は変わらず
翌期以降は減益リスクも

純利益が急に増えるとPERはどう変わる?

PER(株価収益率)は「株価 ÷ 1株当たり純利益」で計算されます。この分母が投資有価証券売却益で水増しされると、PERは見かけ上、低下します。「割安になった」と早合点しそうになりますが、ちょっと待ってください。

ICのPERは現在20.4倍。もし今期の純利益が特別利益で2倍になったとすると、PERは単純計算で半分の10倍程度に見えます。これはもう「お宝発見」のレベルです。が、この特別利益は来期には消えます。すると来期の純利益は元に戻り、PERも再び上昇——つまり、割安に見えたのは一時的な錯覚だった、というオチです。

このカラクリを知っているかどうかで、同じ数字を見ても意味が変わります。プロの投資家はこうした一過性利益を除外した「経常利益」や「営業利益」を重視します。PERを見るときも「今期だけのボーナスが入っていないか」を確認する癖をつけておくと、騙されにくくなります。

たとえば、PERが10倍になったICを見て「割安だ」と買ったとします。ところが、翌期に特別利益がなくなり純利益が半減すると、PERは一気に20倍に逆戻り。株価が同じなら「割高」に映るようになる。値上がり益を期待したのに、業績の「正常化」で株価が伸び悩む、という落とし穴にはまってしまうのです。つまり、PERの低下が「一時的か、持続的か」を見極めるには、利益の中身を分解するしかありません。

「特別利益は評価しない」というプロの思考回路

では、なぜ企業はわざわざこんなことをするのでしょう。理由は単純で、「評価が一時的にでも上がるから」です。多くの投資家は決算短信の「純利益」という一行をまず見ます。そこが前年比で大きく伸びていれば、それだけで「おっ」と思う。実際、ICの開示を見た瞬間に株価が跳ねるかもしれません。ただ、それを本気で評価するプロはほとんどいません。

プロが見ているのは「本業の利益」です。具体的には営業利益や経常利益。ICの場合、売上高約100億円で営業利益率は5%前後。この構造が変わらない限り、企業価値は大きく変わらない——そう考えるのです。特別利益は「雑益」扱いで、企業分析の場では「ノイズ」として除去されることが多い。

この視点は、情報に振り回されないために大切です。かつて2000年代前半、多くの日本企業が保有株の売却益で決算を取り繕っていました。当時は「実は本業がボロボロ」というケースが続出し、株価の乱高下に巻き込まれた個人投資家が大勢いました。あの時と今とで、何が違うかと言えば、開示のスピードが格段に上がったこと。SNSで瞬時に情報が広がり、反射的な売買を誘発しやすくなっています。だからこそ、数字の背景を見極めるスキルが昔よりずっと重要になっているのです。

つまるところ、特別利益で純利益が伸びても「この会社の競争力が上がったわけではない」と冷静に捉えることが肝心です。むしろ本業が苦しいがゆえの粉飾まがいの行動と疑うくらいでちょうどいい。プロは「そんなことより、経常利益の進捗率はどうなんだ」と問う。この思考回路を身につければ、決算発表に一喜一憂しなくなります。

本物の成長と偽物の増益を見分けるたった一つのチェックポイント

チェックポイントはシンプルです。「増えた利益は売上高の増加から生まれたか?」を問うこと。本物の成長は、製品やサービスが顧客に選ばれ、売上高が伸び、そこから生まれる営業利益の拡大を伴います。ICでいえば、システム開発の受注が増えたり、保守サブスクリプションの契約が伸びたりしているならポジティブです。

一方、特別利益は「保有株を売っただけ」。これは資産を取り崩したにすぎません。たとえるなら、貯金箱を壊して「今月の収入が増えた」と言っているようなものです。お金は入ってきますが、貯金箱は空っぽになる。企業でいえば、これまで持っていた優良な株を手放しているわけで、将来受け取れたはずの配当金も失います。

もう少し広げて考えてみましょう。あなたが小さな商店を経営しているとします。今月の売上はいつも通りなのに、倉庫に眠っていた骨董品を売ってまとまった現金を得た。たしかに手元資金は増えますが、来月以降の商売に何か好影響があるでしょうか。答えはノーです。骨董品はもうありません。お店の魅力が増したわけでも、お客さんの数が増えたわけでもない。同じように、ICが保有株を売っても、ITソリューションの顧客が増えるわけではないのです。

今回のICの開示を見て「増益だ、魅力的だ」と思ったら、一度立ち止まって売上高の動向を調べてみてください。もし売上高がそれほど伸びていないのに純利益だけが急増しているなら、その中身は特別利益の可能性が高い。まさに「偽物の増益」です。売上高が年率5~10%程度の安定成長を続けているなら「本物」ですが、横ばいなのに利益だけ倍増、といったケースは、ほぼ間違いなく「貯金箱破壊型」の増益です。

TDnet 適時開示release.tdnet.info· 2026-07-28
投資有価証券売却益(特別利益)の計上見込みに関するお知らせ

将来の配当には影響しない? 株主還元のリアル

「でも純利益が増えたなら、配当も増えるんじゃないの?」——そう考えるのは自然です。しかし、ここにも落とし穴があります。多くの日本企業は、配当の原資を「当期純利益」ではなく「営業利益ベース」や「安定配当の方針」で決めています。特別利益はあくまで非経常的なため、配当の増額には直結しにくいのです。

ICの配当利回りは3.67%。この水準が特別利益によって突然跳ね上がるとは考えづらい。むしろ、売却した投資有価証券からは本来、毎年の配当金収入が得られていた可能性もあります。つまり、短期的に現金を得た代わりに、将来のインカムゲインを放棄したともいえるわけです。たとえば、年3%の配当を生む株を1000万円分売れば、毎年30万円の配当収入が消えます。一時的に1000万円が手に入っても、10年で300万円の機会損失。短期的な「利益」の裏で、長期的な「取りこぼし」が起きているかもしれないのです。

投資家にとって配当は大事なポイントですから、決算説明資料などで「配当方針に変更はあるか」を確認する価値があります。もし配当が増えないのであれば、特別利益は株主還元の面でもほとんど意味をなさなかった、という結論になります。

さらに、企業が得た特別利益を「自社株買い」に回すケースもあります。これは一見、株主還元のように見えますが、やはり一過性です。自社株買いが発表されると需給が改善して株価が上がることがありますが、それも持続的な収益力の裏付けがなければ長続きしません。つまり、配当にせよ自社株買いにせよ、本業のキャッシュフローから生まれていないリターンは「砂上の楼閣」と心得ましょう。

要するに、特別利益による純利益の押し上げを「自分へのリターン」と錯覚してはいけません。本業が生み出すキャッシュでなければ、持続的な株主還元にはつながらない。この視点があれば、開示に惑わされることはないでしょう。

TDnet 適時開示release.tdnet.info· 2026-07-28
特別利益(投資有価証券売却益)の計上に関するお知らせ

IC、アバール、インターライフ。三者三様の業種ですが、今回の開示に共通するのは「本業の延長線上の話ではない」という一点です。アバールは半導体製造装置向け部品で、インターライフは住宅基礎工事が本業。その本業が急に化けたわけではなく、ただ株を売っただけ。この冷静な線引きが、次の投資判断を助けてくれます。

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