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8月19日の東京市場は、日経平均が一時2100円超も下がる急落でした。きっかけは中東情勢の悪化と、米国の半導体株安。SOX指数は前日比で約5%も下がっています。でも、この下げを「AIバブルの崩壊」と決めつけるには、まだ早いかもしれません。今日は、過去2回の大きな下げと比べながら、今の半導体株が本当に危ないのか、一緒に考えてみましょう。
今日の下げ、どこから来たの? 中東・FOMC・米半導体の三重苦
まず、今日の下げの正体を確認しておきましょう。ニュースの見出しには「中東不安」や「FOMC議事録待ち」なんて言葉が並んでいますが、市場が一番反応したのはアメリカの半導体株です。特に、半導体企業の成績表の平均点ともいえるSOX指数が約5%も下がりました。5%というと、1日の動きとしてはかなり大きい。これだけで「何か大変なことが起きたんじゃないか」と不安になるのも無理はありません。
では、なぜ半導体株がここまで売られたのでしょう。直接の引き金は、生成AI向けの高性能半導体を作っている企業の決算です。実は、市場が期待していたほどの売上高の伸びではなかった、という声が漏れてきた。AI向けの投資はまだまだ拡大していますが、そのペースが少し鈍るかもしれない。そんな見方が、半導体株全体に冷や水を浴びせた格好です。
この「期待していたほどではなかった」という反応は、半導体株に限った話ではありません。たとえば、毎年お小遣いが2割ずつ増えていた子どもが、ある年は1割しか増えなかったとします。親は「ちゃんとやっているのか」と心配になる。でも、もらう側からすれば、増えたことには変わりない。今の半導体企業もこれに似ています。前年比で売上は伸びているのに、伸び率が少し鈍っただけで、市場は「もう潮目が変わった」と急に冷たくなる。この過敏さが、今回の下げの本質を説明しています。
さらに、中東の地政学リスクがそこに重なります。投資家はリスクが高まると、とりあえず儲かっている株を売って現金に替えようとします。すると、この1年で大きく値上がりしていたAI・半導体関連株が真っ先に売られる。今日の下げは、この三重苦が重なった結果です。問題は、これが「一時的な調整」なのか、それとも「何かが崩れ始めた合図」なのか。そこを、過去のデータと比べながら順にたどります。
SOX指数が5%も下がると、日経平均まで下がるのはなぜ?
この連鎖は、2021年から22年にかけて起きた「半導体不足」の逆回転とも言えます。あのときは、自動車メーカーが半導体を確保できずに工場を止めました。半導体が足りないと、世界のあらゆる工場が止まる。それほどまでに、半導体は現代経済の血液になっている。ならば、その血液を作る装置を売る日本の企業が、世界の投資家から注目されるのは当然です。今日の急落は、その注目が少し恐怖に変わった瞬間と見ることもできます。
しかも、日本の半導体関連企業は、海外の大手半導体メーカーと直接取引しているケースが多い。だから、アメリカの半導体株が下がれば、翌日の東京市場では真っ先に日本の装置・材料メーカーが売られる。この反応は、今日だけの話ではありません。2024年以降、AIブームが本格化してから、東京市場の朝はいつも「昨夜のSOX指数」に左右されてきました。それは、日本の株価がそれだけ世界の半導体景気と深く結びついている証拠です。
「アメリカの半導体株が下がったって、日本の株と関係あるの?」と思うかもしれません。ところが、これが大ありなんです。日経平均の構成銘柄には、半導体製造装置や材料を作る会社がたくさん入っています。例えば、今日の下げで特に目立ったのが東京エレクトロンやアドバンテスト。これらの会社は、アメリカの半導体企業が設備投資を増やすと売上が伸び、減らすと売上が落ちる、というビジネスモデルです。
つまり、アメリカの半導体企業が「AI向けの投資、ちょっと減らそうか」と考え始めると、日本の装置メーカーへの発注が減る。すると、日本の半導体株も売られる。上流が咳をすれば下流は風邪をひく、という連鎖です。実際、今日の東京市場ではソフトバンクグループという通信・投資の会社が1銘柄で日経平均を約378円押し下げたと報じられています。なぜソフトバンク? それは、同社が多くのAI関連企業に投資しているから。AI関連の売られ方の強さを物語っています。
この連鎖を、もう少し具体的にイメージしてみましょう。半導体は、人でいうと「産業の米」のような存在です。あらゆる電子機器に使われていて、特にAIの計算にはたくさんの高性能半導体が必要です。その半導体を作るための機械を作っているのが日本の会社。だから、AIへの期待がしぼむと、機械も売れなくなる。今日の日本の下げは、この因果の鎖が一気に回った結果なのです。
2000年ITバブルと今の決定的な違いは「利益の有無」
さて、今回の下げを見て「やっぱりAIバブルも崩壊するんだ」と不安になっている方もいるでしょう。2000年のITバブルの再来だと。でも、ちょっと待ってください。あの頃と今とでは、決定的に違うことが一つあるんです。それは、企業が実際に利益を出しているかどうか、という点です。
2000年当時、インターネット関連の企業の多くは、まだ売上こそ伸びていましたが、利益はほとんど出ていませんでした。それでも「将来、インターネットが世界を変える」という期待だけで、株価は天井知らずに上がっていった。つまり、利益の裏付けがない「夢」に投資していたわけです。ところが、今のAI・半導体企業はどうでしょう。例えば、アドバンテストのPERは約70倍ですが、営業利益率は約44%と非常に高い。東京エレクトロンもPER約45倍、営業利益率約29%と、しっかり儲けています。
つまり、2000年は「絵に描いた餅」に大金を投じていたのに対し、今は「実際に稼いでいる餅」に投資しています。もちろん、その餅の値段が高すぎる可能性はあります。でも、中身が空っぽの時代とは全く違う。この点を押さえておくと、ニュースの見方が変わってきます。
2018年半導体調整はどう終わった? 押し目の後に来たもの
2018年の調整を、もう少し身近なたとえで考えてみましょう。半導体メーカーは、見込み生産で在庫を積み上げます。まるで、パンを毎日焼いている店が、客が増えると見込んで多めに仕込むようなもの。ところが、実際の売れ行きが思ったほど伸びないと、倉庫にパンが余ってしまう。これが在庫の積み上がりです。2018年はこの余りが目立ち始め、メーカーが一斉に値下げしたことで、業績見通しが大きく悪化しました。今のAI向け半導体も、需要の伸びが期待より鈍れば、同じことが起こる可能性はあります。
ただし、2018年と今では、需要の構造が違います。あの頃は、スマホやパソコンなど既存のデジタル製品の需要が頭打ちになり、半導体市場全体が踊り場に入りました。いわば、市場のパイが大きくならなかった。一方、今のAI向け半導体は、生成AIの利用拡大に伴って、計算能力そのものへの需要が右肩上がりで増えています。クラウド事業者や企業が競ってAI投資を進めており、パイは今後も膨らむ可能性が高い。つまり、2018年と同じ在庫調整が起きるとしても、その後の回復スピードは違うかもしれません。
とはいえ、利益が出ていても株価が大きく下がることはあります。直近の例が2018年の半導体株の調整です。あのときは何が起きたのか。記憶している方もいるかもしれませんが、2018年の後半、半導体メモリの価格が急落し、半導体企業の業績見通しが悪化しました。すると、SOX指数は半年足らずで2割以上も下落。日本の半導体関連株も大きく売られました。
では、その後どうなったのでしょうか。半導体企業は在庫を減らし、設備投資を絞りました。その結果、需給が引き締まり、1年ほどでメモリ価格は底を打ちました。半導体株はそこから急回復し、特にAIや5Gといった新しい需要の波に乗って、2020年以降は大きく上昇していったのです。2018年の調整は、結果的には絶好の買い場だった、と振り返る人も多い。
この2018年の経緯を数字で振り返ると、調整の厚みが分かります。SOX指数は高値から2割以上下げました。日経平均も、半導体関連株に引っ張られて1割超の調整となりました。しかし、その後の戻りは速かった。2019年の年末には、半導体株はほぼ元の水準まで回復し、2020年には5G需要やテレワーク特需も重なって、さらに高値を更新しました。つまり、半導体株の調整は、長く続かない傾向がある。逆に言えば、下げている時期に「これは一時的なのか」と見極めることが、大きな差を生むのです。
この時の経験が教えてくれるのは、半導体株の下げは「業績の悪化」がはっきり見えてからではなく、その前触れの段階で起きることが多い、ということ。でも、その下げが「一時的な在庫調整」なのか「需要そのものが消える崩壊」なのかを見極めることが、投資の分かれ目になります。では、今はどちらに近いのか。その見極め方を、次でご紹介します。
暴落後に見るべき3つの数字:PER・売上成長・在庫
この3つの数字を理解すると、今日の下げが「調整」寄りなのか「崩壊」寄りなのか、ざっくりと方向感をつかむことができます。たとえば、今日の段階で東京エレクトロンのPERは45倍程度、アドバンテストは70倍程度。これを、2000年のITバブル時の半導体関連企業と比べると、かなり穏やかです。2000年は、売上の何十倍もの時価総額がついた企業がざらにありました。今の水準は、確かに割高ではありますが、バブルというには遠い。この差を数字で認識できると、ニュースの見出しに振り回されにくくなります。
在庫の動きについては、さらに興味深い視点があります。半導体の在庫は、今どのあたりにあるのか。実は、AI向けの最先端半導体は、作れば作るほど売れるという状態がここ数年続いていて、在庫はむしろ不足気味でした。つまり、2018年のような「余ったパンを安売りする」状況とは逆です。ただし、今後、AI投資が一服すれば、先々の需要を先取りして作っていた分が在庫に変わる可能性はあります。この変化をいち早く捉えるには、四半期ごとの決算説明会や業界団体の統計を追いかけるのが有効です。
今日のような急落があると、誰もが「もうダメなのか」「まだ大丈夫なのか」と真逆の問いを頭に浮かべます。そんなとき、プロの投資家は慌てて売ったり買ったりせず、まず3つの数字を確認します。それが、PER、売上成長率、そして在庫の動きです。この3つを自分でチェックできるようになると、ニュースに振り回されにくくなります。
1つ目はPERです。先ほども触れましたが、これは株価が1株あたり利益の何倍まで買われているかを示す指標です。今回の下げで、東京エレクトロンのPERは約45倍、アドバンテストは約70倍になりました。この数字を「高い」と見るか「妥当」と見るかは、利益の成長スピードと相談です。例えば、アドバンテストの売上成長率が年率50%を超えているなら、PER70倍もそれほど非合理ではない。逆に、成長率が一桁に落ちるようだと、さすがに高すぎる。
同様に、売上成長率についても数字を翻訳してみましょう。今、東京エレクトロンやアドバンテストの売上は、前年比で数十パーセントの伸びを示しています。これは、普通の大企業では見られないスピードです。たとえば、日本の製造業全体の平均的な売上成長率は、年率で数パーセント程度です。それを思えば、AI関連企業の成長がいかに突出しているかが分かります。この高い成長が続く限り、多少の調整はすぐに吸収される力があります。今日の下げは、この成長の持続性を市場が試している時間帯とも言えるでしょう。
2つ目は売上成長率です。AI向け半導体の需要が本物かどうかは、関連企業の売上の伸びを見れば分かります。今のところ、東京エレクトロンやアドバンテストの売上は、前年比で大幅に伸びています。つまり、少なくとも現時点では「需要が消えた」わけではない。あくまで、市場が期待していたほどの伸びではなかった、というだけの話かもしれません。
3つ目が在庫の動きです。半導体は景気の波を大きく受ける産業で、需要が落ち込むと真っ先に在庫が積み上がります。ですから、半導体企業の在庫が急増していないかを確認することは、需要の変化を先取りする有力な手がかりになります。この在庫の数字は、決算短信や各種統計で公表されています。今日の下げが「調整」で終わるか「崩壊」になるかは、この在庫の動きが最初のサインを出します。
次に同じようなニュースを見たときは、この3つの数字を思い出してください。PERが急に高くなっていないか、売上が伸びているか、在庫が積み上がっていないか。この3つをチェックするだけで、ニュースの見え方が変わってきます。2000年と今の最大の違いは、利益が出ているかどうか。でも、利益が出ていても、期待が先走りすぎると株価は暴落します。そのバランスを数字で読む。これが、この騒がしい相場を生き抜くための、一番の武器になるはずです。



