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経団連の夏フォーラムが始まり、筒井会長が「投資けん引型経済」の実現を大手企業に求めた、というニュース。一見すると「また財界の掛け声か」と聞き流したくなる話です。でも、実はあなたの持ち株や家計にじわじわ効いてくるテーマかもしれません。なぜなら、足元の国内設備投資は、建設費が過去最高に高騰しているのに、なお進んでいるから。今日はこの「高いのに建てる」という逆説の中に、これからの数年を読むヒントを探しにいきます。
「投資けん引型経済」って具体的に何をする気なのか
筒井会長が強調したのは、大手企業が国内の設備投資を主導し、賃上げや取引先への価格転嫁とセットで回していく経済の姿です。政府が呼びかけ、企業が応えるという構図ですね。ただ、こう聞くと「また補助金で半導体工場を誘致する話でしょ」と思う人もいるでしょう。もちろんそれも含まれますが、今回のフォーラムでにじんだのは、もう少し切迫感のある内需の動きです。
具体的には「サプライチェーンの再構築」や「物流の2024年問題を踏まえた自動化投資」が挙げられます。世界の分断が進む中で、海外からの調達に頼りきれなくなっている。そうした構造的な圧力が、これまでの「コストが安いから」という投資判断を変えつつあります。筒井会長は「経済の自律的な成長軌道を太くする」と表現しました。
ただ、経団連のこうしたメッセージには、どこか「また総論賛成で終わるんじゃないか」という視線もつきまといます。実際、過去の国内投資ブームは何度も期待先行で終わりました。今回との違いが見えるのは、実際に工事が始まっている現場の側です。次のセクションでは、今、誰が、なぜ工場を建てているのかに迫ります。
で、なんで今工場を建てるの? コスト高でも手を止められない3つの理由
第一に「供給途絶リスクへの恐怖」です。数年前、半導体不足で自動車メーカーのラインが止まった記憶が、まだ経営者の頭から離れません。在庫を厚く持ち、生産拠点を国内に移す動きは、コスト計算を超えた「保険料」のような意思決定です。多少高くついても、ラインが止まるよりマシ。この思考が、建設費高騰を許容する土台になっています。
第二に「省人化投資の不可避性」。物流や建設の現場では人が足りません。働き方改革関連法で残業時間の上限規制がかかり、これまで以上の人数を雇うのも困難。そこで、より大きな物流センターや自動化ラインを新設する以外に選択肢がなくなっています。人を増やせないなら、設備で補うしかない。これもコストが高くてもGOが出る構造的な理由です。
第三に「政策の後押し」。政府は半導体や蓄電池、EVなど戦略分野への大型補助金を用意しています。これが引き金となって民間の投資判断を引き出している面は確かにあります。ただ、補助金がなければ投資しないような案件ばかりかというと、そうとも言い切れません。重要なのは、この3つの要因が重なっていること。つまり、今回は単なる「官製バブル」ではない複合的で切迫した構図なのです。
このように、コスト高でも投資を進めざるを得ない「不可避な理由」がある。つまり、経団連が投資を呼びかける以前に、現場はすでに動いているのです。では、その建設費の高騰とは具体的にどれほどのものなのか、次のセクションで数字を追います。
建設費が過去最高なのに、なぜ発注は止まらない? 現場の奇怪な論理
まず現実を直視しましょう。建築費の指標となる国土交通省の建築工事費デフレーターは、足元で過去最高を更新しています。鉄骨やコンクリートといった資材価格は高止まりし、技能労働者の日当はうなぎ登り。もはや「高い」を通り越して「建てられない」領域に近づいている。それでも工事の着工床面積は高水準を維持しており、建設現場では「今年と来年の工程はもう埋まっている」という声が聞かれます。
なぜこんな奇怪な状況が成り立つのか。発注する企業側の頭の中を覗いてみましょう。彼らは「今建てなければ、さらに高くなる」と考えています。資材と労務費は当面下がりそうにない。だったら、早く建ててしまったほうが結果的に安上がりだ、という逆説的な計算です。まるで、家賃が上がり続ける街で「今のうちに買ってしまおう」と焦る住宅購入者の心理に似ています。
さらに、建設会社の側にも変化が起きています。かつてのように際限なく受注を抱え込まず、採算が取れない工事は断るようになった。結果として、工事価格は高止まりしたまま受注が積み上がる構図が続いています。これは投資家にとっては重要なサインです。建設会社の利益率が構造的に改善している可能性を示唆するからです。
具体的な企業で見てみましょう。大成建設は2026年3月期に営業利益率9.0%を計画しており、従来の5〜6%台から飛躍する見込みです。これは同社が採算重視の受注姿勢を明確に打ち出している結果です。また、大和ハウス工業は物流施設の受注残を着実に積み上げており、建設コスト上昇分をテナント賃料に転嫁できる案件を厳選しています。彼らは「高いから建てない」ではなく、「高くても建てる理由がある案件だけを選り好みできる」ポジションにいるのです。
半導体、EV、物流——いつ、どこで工場が建つのか「設備投資カレンダー」
投資の波は業界ごとにタイムラグがあります。まず、いま現在進行形なのが半導体関連です。TSMCの熊本工場やキオクシアのメモリ工場など、超大型プロジェクトの土木・建築工事がピークを迎えています。これらの工事には莫大な建設機械と技術者が動員され、その周辺でも関連施設の建設が連鎖しています。
次に、2025年から2027年頃にかけて本格化が見込まれるのが、EV(電気自動車)関連の電池工場です。パナソニックエナジーやトヨタ系の工場新設が計画されており、これらは自動車工場そのものよりも大規模な投資になるケースが少なくありません。電池工場はクリーンルームや特殊なユーティリティ設備が必要で、設計・施工できる建設会社が限られるため、受注単価は高止まりします。
そして、業界を問わず継続しているのが物流施設(大型倉庫)の建設ラッシュです。ネット通販の拡大と人手不足を背景に、大和ハウス工業や三井不動産などが続々とマルチテナント型の物流施設を着工しています。これらは自動化ライン導入を前提とした天井高や床荷重の仕様で、従来の倉庫よりはるかに設計難易度が高く、結果として工費も割高です。
このカレンダー感覚を持つと、いつ、どの銘柄に恩恵が及ぶのかが見えやすくなります。いまはゼネコンや基礎工事会社の出番。次に、クリーンルームなど専門設備を手掛ける企業、そして実際の製造装置メーカーへと、順番に繁盛期が巡ってくるイメージです。
過去の国内投資ブームはなぜ失敗したのか——そして今回は何が違う
日本では過去にも、バブル景気の後半や、2000年代半ばの「いざなみ景気」の時期に民間設備投資が盛り上がった局面がありました。しかしそれらはたいてい、過剰投資になって設備の稼働率が落ち、利益を圧迫して終わるという後味の悪い結末を迎えています。今回も「また同じことを繰り返すのか」という疑いの目があるのは当然でしょう。
過去の失敗に共通するのは「市場の伸びを過大評価し、供給能力を拡大しすぎた」という点です。たとえば液晶パネルや太陽電池の設備投資が国策として推進され、のちに中国や韓国との価格競争で苦しんだ事例は記憶に新しいところです。しかし今回の投資内容を見ると、様相が少し異なります。
今回の主役である物流施設やデータセンター、半導体工場の多くは、すでに需要が顕在化しているか、供給が全く足りていない分野です。物流施設は空室率が首都圏で1%台という逼迫ぶり。半導体も依然として需給ギャップが埋まっていません。つまり「需要が先にあり、供給が追いついていない」状態であり、過去の「将来の夢に向けて作ったけど誰も使わなかった」という失敗構図とは根本的に異なります。
さらに、建設会社の経営姿勢も変わりました。かつては売上高を追って無理な受注をしていましたが、いまは受注時点での価格交渉を厳格に行い、資材高騰リスクを発注者と分担する契約が増えています。この「身の丈経営」への転換は、投資バブルの際のリスクを見誤る土壌を小さくしています。とはいえ、金利上昇や景気後退でプロジェクト計画が変更されるリスクは常にある。特に建設は長期プロジェクトが多いため、想定外の金利負担増には注意が必要です。
結局、どこにお金が流れるのか——建機・設備工事・素材の「むら食い」に注意
これだけ投資が活発だと、関連銘柄なら何でも上がると思いたくなりますが、現実はそう甘くありません。まず確実に恩恵を受けるのは、建設機械そのものです。小松製作所(コマツ)の国内売上高は、鉱山向けだけでなく、土木・建設用途でも伸びが顕著です。特にICT建機のような高付加価値機種は、人手不足対策として引く手あまた。建設現場が「人」を「機械」に置き換える動きのど真ん中にいます。
次に、建物ではなく「中身」の設備工事を手掛ける企業も見逃せません。荏原製作所は半導体工場向けの真空ポンプで世界トップシェアを持ちます。工場の躯体が完成した後に、こうした精密機器の搬入・設置が始まります。また、設備工事を手がける総合重機の三菱重工業も、大型プラントや物流システムの受注残を積み上げています。特に三菱重工は防衛事業との二本柱で、民需と官需の波を同時にとらえている点がユニークです。
ただし注意したいのは「むら食い」のリスク。工事が大型プロジェクトに集中するあまり、中小の建築工事には人手や資材が回らなくなる可能性があります。そうなると、地域の工務店やサブコンは仕事を取れず、大手だけが潤う構図になりがちです。投資の際は、企業規模や受注構成のバランスを確認することが欠かせません。
次に似たニュースを見たときのチェックポイントは3つ。第一に「誰が発注者か」です。半導体やEVなどの戦略産業か、それとも一般の商業施設かで、景気変動に対する粘り強さが変わります。第二に「工事の進捗段階」です。基礎工事が終わって建物が立ち上がるフェーズか、設備搬入が始まっているかを意識すると、次に忙しくなる業種を推測できます。第三に「受注時と今の資材価格の差」です。ここで利益率が変動します。経団連の掛け声に反応するより、この現場感覚をマスターすれば、あなたの投資判断はぐっと地に足がつくでしょう。


