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無料のABEMAが、なぜサイバーエージェントの儲けの中心なのか

サイバーエージェントが通期予想を上方修正。営業利益は38.2%増。ところが、動画配信のABEMAは赤字が続いています。無料なのに、どうやって会社を儲けさせているのか。広告とゲーム、IP(知的財産)がつながる、メディアミックスの経済圏をひもときます。

超!企業DB 編集部·2026-08-21·15
スマートフォンとテレビ画面に複数の動画配信アプリが表示され、ABEMAなどストリーミング視聴の広がりを表すイメージ
Photo · Jakub Zerdzicki / Pexels
目次6
  1. 01「ABEMAは赤字なのに、会社は増益」ってどういうこと?
  2. 02無料で観られる理由:広告とユーザーデータが生む収益
  3. 03ABEMA発のIPがゲーム・グッズ・ライブでお金になる流れ
  4. 04日本のメディア企業がIPに走る「構造的理由」
  5. 05今回の上方修正が示す「回収フェーズ」
  6. 06同じモデルで注目したい関連企業と、次にチェックすること

サイバーエージェントが2026年9月期の通期予想を上方修正しました。第3四半期の営業利益は前年比38.2%増。ところが、看板サービスの動画配信「ABEMA」は赤字が続いています。無料で観られるサービスが、どうやって会社全体を儲けさせているのか。その逆説の仕組みが、今回のテーマです。

「ABEMAは赤字なのに、会社は増益」ってどういうこと?

サイバーエージェントの決算を見ると、不思議なことが起きています。社運をかけて育てている動画配信「ABEMA」は、単体では赤字が続いています。ところが会社全体の営業利益は38.2%も伸びて、通期予想まで上方修正する好調ぶりです。無料で動画を観せているサービスが、なぜ会社の儲けにつながるのか。この問いを出発点に、サイバーエージェントのお金の流れをたどってみます。

たとえば、あなたが駅前で無料のクーポンをもらったとします。クーポンそのものはタダですが、それを使って入った店でお金を使えば、店は潤います。ABEMAはそのクーポンを、テレビ番組やアニメに置き換えたような存在です。無料で面白いコンテンツを配ることで、人々がサイバーエージェントの経済圏に足を踏み入れる。すると、広告を見てもらい、データを渡し、やがてはゲームやグッズという有料の場所でお金を使ってもらえる。無料とは、入口の敷居をなくす戦略なのです。

まず、ABEMAは本当に無料で観られます。CMは入りますが、NHKの受信料やNetflixのような月額課金は基本的にありません。スポーツ中継もニュースも、アニメも、無料で流れています。普通に考えれば「無料で観せるなら、お金はどこから来るの?」となります。答えの一つは広告ですが、それだけでは赤字を補えません。では、会社全体が儲かるのはなぜか。ここに、サイバーエージェント独自の「メディアミックスの経済圏」という仕組みが隠れています。

ここでは、無料サービスがどうやってお金を生むのか、その全容をひもときます。読むと、テレビや動画サービスの見え方が少し変わります。なぜ「無料が最強のビジネスモデル」と言われるのか、実例で確かめてみましょう。

無料で観られる理由:広告とユーザーデータが生む収益

ABEMAの画面には、テレビと同じようにCMが流れます。この広告収入が、まず一つ目の収益源です。サイバーエージェントは元々インターネット広告の国内トップ企業。ABEMAは自社の広告配信技術を活かし、視聴者の属性や興味に合わせて広告を出し分けています。広告主にとっては「若い世代がたくさん観ている無料サービス」に出稿する価値が高い。テレビ離れが進むなかで、デジタル広告の受け皿として存在感を増しています。

では、なぜ無料だと広告の価値が高まるのでしょうか。有料サービスは、最初からお金を払う意志がある人しか集まりません。無料は違います。興味がある人も、なんとなく暇つぶしをしたい人も、幅広く取り込めます。母数が増えれば、それだけ細かい属性に分けて広告を配信できます。年齢、性別、趣味、視聴時間帯。広告主は「こういう人に届けたい」という注文がしやすくなる。無料は、広告在庫の量と質を同時に高める仕組みなのです。

さらに重要なのが、ユーザーデータです。ABEMAで何を観て、どこで離脱したか、どのCMに反応したか。1人ひとりの視聴履歴は、サイバーエージェントが手掛ける多くの広告キャンペーンの設計に使われます。広告の精度が上がれば、クライアントの満足度も上がり、次の広告予算が集まる。これは広告代理店ビジネスとABEMAが車の両輪のように回る構図です。

このデータの流れは、スーパーのポイントカードに似ています。お客はポイントをもらうためにカードを提示しますが、その裏では購買履歴が蓄積され、棚の並べ方や特売品の選定に使われます。ABEMAも同じです。視聴データは、次にどの動画を推薦するかだけでなく、クライアントの新商品開発やターゲティング広告の設計にも生かされます。データが増えるほど、提案の精度が上がる。すると競合他社との差が開き、広告代理店としての単価も維持できます。無料コンテンツは、データという資産を毎日せっせと作り出す工場でもあるのです。

つまり、ABEMAは「赤字の動画サービス」ではなく、広告事業のデータを集める巨大なアンテナとして機能しています。たとえるなら、百貨店の屋上にある無料の遊び場。遊び場そのものは利益を生みませんが、家族連れが百貨店に入るきっかけになり、売上全体を押し上げる。ABEMAはデジタル版の屋上遊園地です。

屋上遊園地のたとえをもう一歩進めてみましょう。子どもが遊園地で遊ぶと、親はその間に百貨店で買い物をします。買い物が終わったら、今度は家族でレストランの食事に行くかもしれません。百貨店にとって、屋上遊園地は集客装置であると同時に、滞在時間を延ばす装置でもあります。ABEMAも同じです。無料の生放送や短尺動画でユーザーを引き留め、アプリの起動時間を増やす。その間に、サイバーエージェントが提供する別のサービスや広告に接触してもらう。無料体験の時間が長いほど、有料サービスへの導線は太くなります。

この広告とデータ収集の仕組みだけで、会社全体の増益を説明できるのか。実は、それだけでは説明が足りません。ABEMAの本当の力は、コンテンツそのものが将来のお金を生む「タネ」になることにあります。

ABEMA発のIPがゲーム・グッズ・ライブでお金になる流れ

ABEMAはオリジナルのアニメやドラマ、バラエティ番組を数多く放送しています。これらが「IP(知的財産)」と呼ばれる資産になります。IPとは、ざっくり言うと「ファンがいる世界観」のこと。アニメのキャラクターやストーリー、音楽、ライブイベントのノウハウが、形のない資産として積み上がります。

Google Newsnews.google.com· 2026-08-21
サイバーエージェント、2026年9月期第3四半期は営業益38.2%増。ABEMA・IP・ゲームが牽引し、通期予想を上方修正 - Brand New Creativity

このIPが、ゲームやグッズ、ライブイベントなどでお金に換わります。たとえば、ABEMAで人気が出たアニメのキャラクターを使ったスマホゲームが開発されれば、そのゲームの課金収入が入ってきます。グッズを売れば物販収入。音楽ライブを開催すればチケット収入。無料で配信したコンテンツが、別の形でお金を生み出す。これが「メディアミックスの経済圏」の正体です。

具体的に言えば、ABEMAで無料で観たアニメの続きをスマホゲームで遊びたいと思ったとき、あなたはお金を払うかもしれません。ゲーム内のキャラクターガチャ、限定スキン、スタミナ回復アイテム。これらは全てデジタルな商品で、原価は限りなくゼロに近い。しかし、ファンにとっては物語の世界に入るための通行料として、喜んで支払う価値があります。無料で作品への愛着を育て、その愛着をデジタル課金や物販に変換する。これが、ABEMAが「赤字でも意味がある」と言われる最大の理由です。

サイバーエージェントはゲーム事業を社内に持っています。ABEMA発のIPをゲーム化するとき、自社で一気通貫に開発・運営できるのは大きな強みです。ここで稼いだお金で、さらに新しいコンテンツを無料で配信する。すると新しいファンが集まり、新しいIPが生まれる。まるで雪だるまが坂を転がるように、コンテンツ投資が将来の収益を呼び込む循環構造ができています。

雪だるまのたとえで言うなら、広告とデータは雪の材料、ABEMAは雪玉を転がす坂道、ゲームとIPは転がりながら大きくする力です。ただし、雪だるまは坂を転がすだけで勝手に大きくなるわけではありません。作る人が雪を固め、方向を調整し、溶けそうになったら冷やす必要があります。サイバーエージェントには、社内にゲーム事業を持つことで、ABEMAが作った雪玉をすぐに固められる利点があります。グループ外の会社に頼るのではなく、内側で雪だるまを転がし続ける。これが他社との大きな違いです。

流れはこう
1
ABEMAで無料配信
視聴者を集め、広告収入とユーザーデータを獲得
2
IPが生まれる
キャラクターやストーリーがファンを獲得
3
ゲーム・グッズ・ライブで収益化
自社ゲーム事業や物販、イベントで現金化
4
利益を再投資
新たなオリジナルコンテンツを制作・配信
5
ファン層が拡大
より多くの視聴者とデータが集まり、循環が加速

実際、決算では「ABEMA・IP・ゲームが牽引」と説明されています。無料のABEMAが種をまき、ゲームとIPが収穫する。サイバーエージェントの増益は、この循環が回り始めた証拠というわけです。

日本のメディア企業がIPに走る「構造的理由」

サイバーエージェントに限らず、日本のメディア企業はこぞってIP重視の戦略に転換しています。なぜか。それは、広告収入だけでは成長できないからです。テレビ離れ、新聞離れ、雑誌の廃刊が続くなかで、メディアの広告収入は頭打ち。一方で、ゲームやライブ、グッズ販売など、IPを現金化する市場は拡大しています。

その背景には、日本の広告市場の成熟があります。電通や博報堂など大手代理店が長年築いてきたテレビ広告モデルは、動画配信の普及で崩れつつあります。総務省の統計を待つまでもなく、若年層のテレビ視聴時間は年々減少し、スマートフォンに移っています。広告主は、限られた予算を効果の測りにくいテレビから、データが取れるデジタル広告へ移す流れにあります。ところがデジタル広告も、GoogleやAmazonなど海外プラットフォームに多額の広告費が流れています。国内メディア企業は、広告だけで生き残るのが難しい。そこで、自社でIPを持ち、ゲームや物販で収益を多角化する道を選んだのです。

たとえば、漫画やアニメを原作にしたゲームが世界中で大ヒットする。テーマパークやカフェ、音楽フェスなど、IPを体験できる場も増えています。こうした流れで、メディア企業は「広告を売る会社」から「IPを創って育てる会社」への転換を迫られています。ABEMAがオリジナルコンテンツに力を入れるのも、この大きな流れの一部です。

つまり、メディア企業にとってのIPは、単なる番組やキャラクターではありません。広告収入が減っても崩れない、将来の現金の源泉です。漫画の連載が終わってもアニメや映画、ゲームで稼げる。さらに、その作品を好きになったファンが、次の作品にお金を落としてくれる。このように、IPは一度作れば長期間にわたって収益を生み続ける「埋蔵金」のような資産です。ABEMAがオリジナル番組を増やしているのは、こうした埋蔵金を自社で掘り当てるための投資と言えます。

過去を振り返ると、1980年代の日本でも似た現象がありました。テレビアニメのキャラクター商品が爆発的に売れたとき、制作会社や広告代理店はキャラクタービジネスの可能性に気づきました。あのときはおもちゃや文具が中心でしたが、今はゲームとデジタル配信が主戦場です。形は変わっても、「無料で広く知ってもらい、別の場所でお金をいただく」という発想は同じです。

サイバーエージェントの場合、ABEMAという巨大な無料配信基盤があるため、IPを世に送り出す力が他社より強い。ここが競争上の武器になっています。

今回の上方修正が示す「回収フェーズ」

サイバーエージェントは長年、ABEMAに巨額の投資を続けてきました。それがようやく、投資の回収フェーズに入ったとみられます。通期予想の上方修正は、無料配信で育てたIPがゲームや物販で収益化し始めたというサインです。

わかりやすく言うと、これまでのサイバーエージェントは、農家が種や肥料に大きなお金をかけて畑を作っている段階でした。ABEMAへの投資は、視聴者という畑にコンテンツという種をまき、水をやる作業に当たります。今年の上方修正は、ようやく収穫期に入って、最初の実がなり始めたことを示しています。ただし、畑は毎年全ての作物が実るとは限りません。天候不順もあれば、害虫の被害もあります。IPビジネスも同じで、ヒット作が出る年もあれば、全く振るわない年もあります。重要なのは、畑の面積と土壌の力、つまりABEMAの視聴者基盤とデータの厚みです。

第3四半期営業利益
+38.2%
前年同期比
通期予想
上方修正
ABEMA・IP・ゲームが牽引

これまでは「ABEMAは無料で観られるのに、なぜ会社は儲かるのか」という逆説が、投資家の間でも理解しづらい部分でした。しかし今回の決算で、その仕組みが数字として見えるようになってきた。市場がこの企業を再評価するきっかけになり得ます。

ただし、注意も必要です。IPビジネスはヒットに依存します。ゲームが当たるか、アニメが話題になるかは、やってみないとわからない。サイバーエージェントは毎年多くのコンテンツを投入することでリスクを分散していますが、全滅すれば回収は遅れます。それでも、会社全体の広告事業が安定した土台としてあるため、ABEMAの赤字は余裕で受け止められる。このバランスが、今のサイバーエージェントの強さです。

リスク分散の考え方は、複数の作物を作る農家に似ています。一つが不作でも、他が豊作なら収入は安定します。サイバーエージェントも、スマホゲームを複数同時に運営し、アニメやドラマも多様なジャンルを揃えています。さらに、広告事業という安定した畑を既に持っている点が心強い。なので、ABEMAが少々赤字でも、会社全体の財務は揺るぎません。むしろ、無料サービスを続けることで若年層のユーザーを囲い込み、将来の有料化やIP収益のチャンスを増やしている。これは短期的な利益を犠牲にしても、長期的な企業価値を優先する経営判断です。

サイバーエージェント
4751
企業ページへ
売上
8,740億円
営業利益
717億円
時価総額
6,441億円

同じモデルで注目したい関連企業と、次にチェックすること

この「無料コンテンツで集めて、IPで稼ぐ」モデルは、サイバーエージェントだけの話ではありません。たとえば、大手の出版社やアニメ制作会社、ゲーム会社も同じ道を歩んでいます。無料配信のプラットフォームを持っているか、持っていないかで勝負が分かれます。持っている企業は、自社IPを好きなだけ世に送り出せるからです。

次にサイバーエージェントのニュースを見たときは、単純な増益だけでなく「無料でどれだけファンを集め、それをどこでお金に換えているか」を追ってみてください。ABEMAの視聴者数や人気コンテンツ、ゲームの課金収入、グッズ販売の動向などです。これらが伸びていれば、IP経済圏がさらに回転していくと期待できます。

また、広告事業の動向も重要です。景気が悪くなると広告費は真っ先に削られます。サイバーエージェントの屋台骨は広告ですから、ここが落ち込めば全体の成長は鈍ります。つまり、無料のABEMAは「景気に強いIP収入」と「景気に弱い広告収入」の両方を抱える事業だと理解しておくと、ニュースの読み方が深まります。

無料サービスがどうやって儲けるのか、その一つの答えがここにあります。次に「無料」という言葉を見たとき、裏でどんな経済圏が回っているかを考える習慣がついたら、しめたものです。

この記事のあとに読むサイバーエージェント/ABEMA / 業界俯瞰