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日経平均が一時2300円超も急落した乱調相場のなか、株探の特集が建設株を「金鉱脈」と紹介して注目を集めた。成長株が売られる局面で、なぜ建設株が輝くのか。投資家が「目先の配当」と「割安さ」に逃避する、その理由を順にたどってみる。
乱調相場で浮上した「建設株」金鉱脈とは
8月22日、日経平均は一時2300円を超える下落を記録し、週間では3.9%安と大きく荒れた。中東情勢による金利上昇への警戒感から、成長株に売りが広がった。この日の市場で、株探の特集が目をつけたのが建設株だ。大成建設、大林組、清水建設、鹿島建設、コムシスホールディングスの5銘柄を「高配当バリュー株の宝庫」と紹介している。成長株にお金が向かないとき、投資家は何を基準に株を選ぶのか。その答えが、建設株の「退屈な魅力」に詰まっている。
株価が大きく下がる局面では、投資家の心理が変わる。将来の大きな成長よりも、いま手にできる現金や、目に見える割安さを優先するようになる。建設株は昔からこの手の相場で買われてきた。理由は数字を見れば一目瞭然だ。大成建設の配当利回りは3.08%、大林組3.2%、清水建設3.3%。PBR(株価純資産倍率)は1.5〜2倍台と、市場全体から見れば割安な水準が並ぶ。
つまり、乱調相場で建設株が「金鉱脈」と呼ばれるのは、金が山から掘り出されるような派手さがあるからではない。むしろ逆で、どんなに値崩れしても地面の下に価値が埋まっている、という安心感が買われるのだ。穴を掘れば必ず鉱脈に当たる――そんな期待に、荒れた心が吸い寄せられる。
建設株が高配当バリューと言われる理由
建設業は、私たちの暮らしの土台を作る仕事だ。道路、橋、ビル、トンネル。派手なニュースにはならないが、社会が回るために欠かせない。この業界の特性が、投資の世界では「高配当バリュー」という評価につながる。
配当利回り3%超という数字は、銀行預金や国債の利回りと比べれば圧倒的に高い。しかも建設大手は毎年コンスタントに利益を出し、その一部を配当として株主に還元してきた実績がある。大林組の配当利回りは3.2%、清水建設は3.3%。これは1株あたりの年間配当金を株価で割った数字で、今の株価で買えば、1年間でそれだけの現金が手に入るという意味だ。
PBR(株価純資産倍率)とは、会社の純資産(資産から負債を引いた残り)に対して株価が何倍まで買われているかを示す指標だ。1倍を下回れば「会社の持ちもの全部を売っても株価に届かない」ほど安い。建設株はかつてPBR1倍割れが当たり前の時代があった。今は少し改善して1.5〜2倍台だが、それでも成長株に比べれば割安感が強い。株価が下がれば下がるほど、これらの指標はさらに魅力的に見える。
つまり、建設株が高配当バリューと言われるのは、市場から期待されていないからだ。期待されていないから株価は上がりにくい。だが、その分だけ配当利回りは高く、PBRは低くなる。この「人気のなさ」が、荒れた相場では逆に武器になる。
なぜ荒れた相場で高配当株が買われるのか
株式投資には、大きく分けて二つの儲け方がある。一つは株価の上昇による売却益(キャピタルゲイン)。もう一つは配当金という現金収入(インカムゲイン)だ。成長株は前者、高配当株は後者を主な目的に買われる。
相場が好調なときは、誰もが未来の儲けを欲しがる。テクノロジーや新素材の企業に資金が集まり、株価は急騰する。配当利回り3%など「地味すぎる」と見向きもされない。しかし、中東の緊張や金利上昇で先行きが心配になると、投資家の頭は一気に「いま、確実に手に入るもの」に切り替わる。そこに現れるのが高配当株だ。
また、荒れた相場では成長期待が裏切られるリスクが高まる。高いPER(株価収益率)で買われている成長株は、少しでも業績がブレると大きく売られる。建設株のような低PER・低PBRの銘柄は、すでに織り込み済みの悲観が多いため、下値が限定的になりやすい。いわば「がっかりする材料が少ない」株だ。
この一連の流れは、過去にも何度も繰り返されてきた。例えば2020年のコロナショック時、株式市場全体が暴落する中でも、比較的下げが小さかったのは公共事業やインフラに関わる企業だった。覚えている人もいるかもしれない。建設株はその代表格で、政府の経済対策の恩恵を受けると期待され、いち早く買い戻された。歴史は繰り返す、というより「投資家の心理」が同じなのだ。
つまり、荒れた相場で高配当株が買われるのは、逃げ場を探す心理と、実績のある現金収入への信頼がセットになるからだ。派手さはないが、嵐の夜に灯りが見える安心感がある。
建設業界の隠れた安定性:公共事業とインフラ老朽化
建設業と聞くと、景気に左右される不安定な産業というイメージを持つ人がいるかもしれない。確かに民間のマンション建設やオフィスビルは景気の波を受けやすい。しかし、大手ゼネコンの収入源は意外なほど公共セクターと老朽化対策に根を張っている。
日本では、道路や橋、上下水道などのインフラが高度経済成長期に一斉に整備された。それらが今、更新時期を迎えている。国土交通省もインフラ老朽化対策に毎年大きな予算を割いている。建設会社にとっては、この老朽化は「安定的な仕事」を意味する。景気が悪くても、崩れそうな橋を放置するわけにはいかない。人は、困る前に対策するものだ。
また、大規模災害のたびに復旧・復興工事の需要が生まれる。地震、台風、豪雨。災害は不幸なことだが、建設会社はその復旧を担う。鹿島建設や大成建設は、国内の大型インフラ案件で長年の実績があり、技術力と信頼性で公共工事を受注し続けている。
さらに、近年は脱炭素関連のインフラ投資も増えている。風力発電所の基礎工事、水素ステーションの建設、省エネビルの改修など、新しい分野の仕事も広がりつつある。清水建設は再生可能エネルギー関連工事にも積極的だ。建設業は思ったよりずっと、未来の社会に組み込まれている。
つまり、建設業の安定性は「景色の変化」に支えられている。古いものを直し、災害から立ち直り、新しいエネルギーを作る。派手さはないが、無くてはならない存在だ。この隠れた安定性が、配当利回り3%という数字の裏付けになっている。
割安のものさし PBRと配当利回り
投資の世界で「割安」を測るものさしはいくつかあるが、代表的なのがPBRと配当利回りだ。建設株がバリュー株として注目されるのは、この二つの数字が市場平均より良いからだ。
PBR(株価純資産倍率)は、先ほども触れた通り「会社の純資産に対して株価が何倍か」を示す。1倍を下回れば、その会社は理論上、解散して資産を売った方が儲かる計算になる。もちろん実際にはそんなことはしないが、それだけ株価が低いという目安になる。大成建設のPBRは2.16、大林組1.62、清水建設1.56、鹿島建設1.6。成長期待の高いハイテク株のPBRが5倍、10倍とされることもある中で、この水準は明らかに「期待されていない」証拠だ。
一方、配当利回りは「株価に対して何%の配当金がもらえるか」を示す。日本株全体の平均配当利回りは2%弱とされる中、建設大手は3%を超える。大成建設3.08%、清水建設3.3%は、国債利回りがようやく1.5%を超えた程度の時代には、かなり魅力的な数字だ。銀行に預けるより、建設株を持つ方が現金収入が多い。
ただし注意もある。PBRや配当利回りが良いからといって、必ず株価が上がるわけではない。むしろ、割安株が長く放置されることはよくある。荒れた相場で一時的に光が当たるのは、安全な逃げ場としての需要が高まるからだ。持つ理由と、買われる理由は別物だと知っておきたい。
つまり、割安のものさしは「市場から見放されている度合い」を測る道具でもある。建設株がPBR1.5〜2倍、配当利回り3%台というのは、期待値ゼロの地点からようやく少し認められ始めた段階だ。この数字が、荒れた相場で「金鉱脈」と呼ばれる根拠になっている。
注意点:公共事業依存と金利上昇の逆風
ここまで建設株の魅力ばかりを述べてきたが、金鉱脈にも落とし穴はある。建設株を買うときに知っておくべきリスクの筆頭は、公共事業への依存度と金利上昇だ。
建設大手の収益のかなりの部分は、国や地方自治体が発注する公共事業から来ている。これは安定性の源である半面、政治の動きによって予算が左右される脆さでもある。もし政府が財政再建に舵を切り、公共投資を大幅に削れば、建設会社の受注は減る。景気が良くなっても、緊縮財政ならば恩恵は薄い。
もう一つの逆風は金利上昇だ。建設業は借金を多く使う事業ではないが、不動産開発や海外プロジェクトでは資金調達を行う。金利が上がれば支払利息が増え、利益を圧迫する。さらに、高配当株は金利上昇局面では敬遠されがちだ。なぜなら、国債など安全資産の利回りが上がれば、わざわざリスクを取って株の配当をもらう必要が薄れるからだ。今回の中東情勢による金利上昇への警戒感は、まさにこの逆風を示している。
実際、コムシスホールディングスのような通信インフラ専門の建設会社は、顧客が通信キャリアに集中しているため、その投資動向に収益が左右される。安定しているが、自由はない。建設業界全体の構造として「誰に雇われるか」が収益の質を決める。
つまり、建設株は「退屈な安全」であり、リスクゼロの投資ではない。安心と油断は紙一重。持ち続けるなら、公共投資の予算や金利の動きを定期的にチェックする必要がある。
それでも、荒れた相場で一時的な避難先として機能するのは、長い歴史が証明している。次に相場が大きく揺れたとき、あなたはきっと今日の話を思い出すはずだ。



